2024年、打者専念のシーズンを送った大谷翔平。移籍や自身の結婚など大きな転機となった1年で、前人未到の「50-50」で3度目となる満票でのMVPを獲得した。そんな彼にはドジャースの指導陣も、未来の二刀流候補も尊敬の念を隠し得ない。雑誌「Sports Graphic Number」掲載記事から、その言葉を抽出する。
54本塁打も…じつは“最も遅い”第1号だった
<証言1>
誰よりも自分の体のことを知っている。
(ロバート・バンスコヨック/Number1094・1095号 2024年4月18日発売)
◇解説◇
大谷翔平はドジャース加入1年目となった2024年、環境の変化などがあったにもかかわらず「打率.310 54本塁打130打点59盗塁 OPS1.036」の成績で前人未到の「50-50」を達成。現時点でのキャリアハイとなる驚異的なスタッツを残した。シーズン途中から急激に伸ばした盗塁数はもちろんのこと、自身初となる50本塁打に到達した。
じつは今シーズンの大谷は、開幕してから第1号ホームランが出るまで、メジャー移籍以降で最も時間がかかっていた。韓国・ソウルでのオープニングゲーム直後に起きた水原一平元通訳の“事件”、さらには太平洋をまたいだ長距離移動などタフな状況を強いられる中で移籍後初本塁打が出たのは、4月3日の開幕9戦目のジャイアンツ戦、41打席目のことだった。
ショウヘイは打撃で一貫性を…
「まず1本出て安心しているのが率直なところ」
日本ハム時代から長年にわたって、大谷の番記者を務める柳原直之記者の取材によると、大谷もこう気持ちを吐露したという。しかし2日後のカブス戦で2試合連続となる本塁打を放つなど、徐々にアーチをかける感覚を取り戻していった。実際、カブス戦の一撃後にはデーブ・ロバーツ監督も「明らかに良いスイング」と話してもいる。
指揮官だけでない。大谷の姿勢に一目置いていたのは、打撃コーチを務めるロバート・バンスコヨックである。
タブレット端末を使った相手ピッチャーの解析、さらには自身のデータ収集に対する余念のなさに、冒頭の表現で信頼を示した。
なお今季途中から大谷はバッターボックスに立つ自分とホームベースの距離感を測るため、打席前にバットを地面において左足の位置を一定にするルーティンを導入した。これについてもバンスコヨックコーチは感銘を受けていた。
「翔平は打席で一貫性を保つことを大事にしている」
エンゼルス時代の大谷を見た時の衝撃
<証言2>
僕にとってショウヘイ・オオタニは「野球界のメシア(救世主)」なんです。
(ブライス・エルドリッジ/Number1099号 2024年6月27日発売)
◇解説◇
2024年の大谷は打者として特筆すべき成績を残し、ヒリヒリした9月の戦いから初のポストシーズン、そしてワールドチャンピオンへと駆け抜けた。それでも来たる2025年には新たな楽しみが待っている。右ひじや左肩脱臼の回復プロセスが重超であれば――本拠地ドジャースタジアムの先発マウンドに上がるはずだからだ。
日本で「二刀流」と表現される投打両面でのプレー。アメリカでは2020年代に入ってから「Two-way Player」として表現される。それ以降のMLBドラフトでは、二刀流としての期待を掛けられた選手が指名されてきた。その一人がサンフランシスコ・ジャイアンツに23年ドラフト16位指名を受けたエルドリッジである。
「オオタニの名前を初めて知ったのは、彼がエンゼルスとサインしたときです」
ブラッド・レフトン記者の取材によると、当時中学生だったエルドリッジは投打両方で活躍する選手だったが、プロを目指すためにはいずれかに絞る必要があると考えていた。しかし大谷がメジャーで活躍する姿を見て「プロで二刀流」が目標となったそうだ。そんなストーリーがあるからこそ、大谷を「救世主」と評したのだろう。
救世主と称された大谷の2025年は…
エルドリッジは現在、マイナーの舞台で実力を磨いている。そんな彼はマイナー初年度、打者として急成長してしまったがゆえ、球団はまず「パワーヒッターの一塁手」としての育成方針を取ることにしたという。そこに複雑な気持ちを抱えながらも「ときどきマウンドに上がって」練習している。打者としてか、それとも投手としてか……数年後、大谷と対戦する機会は訪れるだろうか。
そんなエルドリッジが「救世主」と評した大谷は、Number1111号の単独ロングインタビューに応じ、新たなチームメートの振る舞いに感銘を受けたことや、バッティング、そして来季復帰予定のピッチャーとしての可能性などについて触れている。“さらに高い期待”をかけたとしても……その飽くなき探求心があれば、2025年もクリアしていくのかもしれない。