66歳になるクリスマスの誕生日を前に、メジャー最多の1406盗塁を誇るリッキー・ヘンダーソンが他界した。米メディアによると、長く肺炎を患っていたそうだ。
9月29日(現地時間、以下同)、Tモバイル・パークで行われたアスレチックス対マリナーズ戦で始球式を行ったのが、公の場に姿を見せた最後とされる。そのときの映像を見ると、現役時代とほぼ変わらない体型であり、今にも走り出しそう。
あれから、わずか2カ月半後のこと。球界全体が言葉を失っている。
そのヘンダーソンは2008年のインタビュー(スポーツ・イラストレイテッド電子版、9月10日)で、「ホワン・ピエール(マーリンズなど)、カール・クロフォード(レイズなど)、ジミー・ロリンズ(フィリーズなど)、ラファエル・ファーカル(ブレーブスなど)らの盗塁スタイルが好き」と話していたが、彼の目には大谷翔平(ドジャース)の走塁、盗塁技術はどう映っていたのだろう。
一度聞いてみたかったが、彼がそのインタビューで残した言葉と、クレイトン・マッカロー元ドジャース一塁コーチ(現マーリンズ監督)による大谷の盗塁技術の解説を比較しつつ、二人の共通点、相違点などをたどってみたい。
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「誰もけん制でリッキーを刺すことはできない」
まず、最大の違いは、スライディング。大谷は足から、ヘンダーソンは頭から。その理由について、ヘンダーソンはこう説明している。
「ヘッドスライディングを始めたのは、3Aのとき。足から滑ると、膝と足を痛めてしまうリスクがある。もちろん、頭からいくと、肩と手をケガする可能性がある。どちらがより、キャリアに影響が少ないかを考えた。リッキーとって膝と足が一番大事だから、頭を選んだ」
大谷はワールドシリーズで左肩を脱臼。足からスライディングをしても肩を痛める可能性は否定できないが、やはり投手もやっている大谷が、ヘッドスラインディングをすることは想像し難い。頭からの場合、体への衝撃も無視できないが、ヘンダーソンはこう心がけていたという。
「飛行機の着陸のとき、激しく揺れるときとスムーズなときがある。あるとき、全く揺れなかったから、機長に聞いたんだ。『どうやったら、あんなにスムーズに降りられるんだ』って? そうしたら、『着陸直前、できるだけ長く低い位置をキープすることだ』と教えられた。リッキーは以来、体への衝撃を和らげるため、できるだけ低い位置から、スライディングをするようにしたんだ」
一方、投手の動きを読むことに関しては、共通点が多い。大谷に関しては、マッカローコーチがこう証言している。
「翔平は、相手投手の映像を非常に注意深く見ている。けん制の動作、けん制がきそうなタイミングやカウント、投球モーション。ホームに投げるときとけん制を投げるとき、体の動きはどう違うのか。けん制を投げる前に上体が少し後ろに傾くが、ホームに投げるときは立っているとか。けん制のときとホームに投げるときとでは、投手によって微妙にグラブの位置に違いもある。試合中もそうだ。彼は『肘の後ろが動く』とか気づいた点を指摘してくる。試合前の予習もすごいけど、試合中も常に観察している」
対してヘンダーソンは、こう話している。
「打席で相手投手の動きから、球種を見抜く打者がいる。自分にはまったくわからない。でも、一塁へ行くと、ホームへ投げるのか、けん制が来るのか、すべてわかる。クイックが上手い投手からはやはり、盗塁しにくい。でも、けん制が上手い投手からは、盗塁がしやすい。誰もけん制でリッキーを刺すことはできない」
“けん制が上手い投手からは盗塁がしやすい”ーーというのは、矛盾しているようだが、どういうことか。その答えは、キャリア序盤にあるよう。
「130盗塁をしたとき(1982年)、42回も失敗がある。でも、そのうち36回がけん制死だった。だから、相手のけん制の動きを徹底的に研究するようになったんだ」
以来、けん制に対しては絶対の自信を持つようになった。結果として、盗塁の成功率も上がっていった。